十年前。
 莉央が紙切れ一枚で高嶺の妻になってからしばらくして、結城家にやってきた新進気鋭の日本画家が、設楽桐史朗である。

 美人画の名手、鏑木清方の再来と呼ばれ、また彼自身の、真珠を刻んで作ったような美貌と相まって、芸術界において熱狂的なもてはやされ方をしており、派手好きな祖母の招きで、結城家に客人として招かれたのだ。

 そこで莉央は初めて設楽の画を見た。
 ニューヨークの美術館に、家が一軒買えるような値段で買われることになったという設楽の画は、ふすまに描かれた美人画だった。

 ニューヨークに売られてしまう前にと、好事家たちが集まったのが祖母主催のパーティの趣旨だった。


 自分への持参金がそんなことに使われていると知った莉央はまた落ち込んだが、もともと画を見るのが好きだった莉央は、興味本位で広間に見に行ったのだ。


 うつ伏せに横たわる振袖の美女の向こうに格子窓。
 扇情的な構図であるのに、あくまでその画はどこか悲しくて清らかに見えた。

 美しい、素晴らしいと絶賛する客たちとは別に、遠巻きにその画を眺めていた莉央は、無性に泣きたくなった。