『今、目を通しています。莉央、私が知らない間にいい画をたくさん描いていますね』
「そんな……」
『これを見たのは、ほぼ羽澄くんだけだと聞きました。私は今、少し羽澄くんに嫉妬していますよ』


 電話の向こうの設楽は、くすりと笑っている。

 やはり自分はたくさんの人に支えられている。
 気持ちに応えたいと改めて感じる。


「あとで羽澄に連絡をします。ありがとうございます」
『莉央、よかったら今から会えませんか?』
「え?」


 若干唐突に感じながら、壁の時計を見あげると正午を十五分ほど過ぎている。

『少し遅めになりますが、昼食を一緒にどうでしょうか』

 おそらく日本で一番忙しい日本画家である設楽の貴重な時間を自分が奪っていいのだろうかと迷ったが、断る理由はなかった。


「三十分ほどで出られます」
『よかった。ではまた後ほど』


 時間と場所を手帳にメモして、莉央は時計を見上げた。


「あの人……お弁当を食べたかな」


 尊敬する設楽とのランチよりも、なぜかそんなことが気になった。