エレベーターが最上階に到着する。

 廊下には品のいいすみれ色の絨毯が敷き詰められている。
 左奥の壁には二号サイズの風景画がかかっており、右手奥にはドアがあった。


「あの絵……城田先生かしら。素敵ね」
「どうせ金に任せて購入したのでしょう。絵の良さがわかる男なはずありません」


 羽澄の手厳しい言葉に莉央は苦笑する。

 仕方ない。
 とにかく羽澄は高嶺正智のやることなすこと全てが気にくわないのだ。

 彼は税所羽澄(さいしょはずみ)。二十八歳。
 先祖代々結城家に仕えてきた、最後の一人であり、お嬢さま命の青年なのである。

 両開きのドアに近づくと、自動でドアが開く。

 莉央の視界いっぱいに東京の街並みが広がった。

(なんて景色……。そしてあれが私の夫、高嶺正智。)



 彼を前にして、莉央は痛みに似た衝撃を受けていた。