「そうやって、あなたは私を人扱いしない……上から見て、バカだって笑ってる……この十年、ずっと……」
莉央の大きな目は怒りに満ちていた。涙をポロポロこぼしながら、それでも高嶺を正面から見据えた。
「あなたなんか大嫌い……本当に、大嫌いっ……!」
莉央の押し殺した悲痛な叫びは、まっすぐに高嶺の胸を貫いた。
莉央は溢れる涙を拭うこともせず、財布から千円札を抜いてテーブルの上に置く。そして高嶺が声を発する暇も与えず出て行ってしまった。
残された高嶺はコーヒーカップを持ったまま、身動き一つ取ることができなかった。
もうここに莉央はいないというのに、くるくると変わる莉央の表情が浮かんでは消える。
そしてコーヒーが完全に冷めるほどの時間が経ち、ようやく自分が、莉央に「大嫌い」と泣かれて、ひどくショックを受けていることに気づいた。
「莉央……」
他人の気持ちなどどうでもいいと思っている自分が、なぜか傷ついていることも、高嶺をひどく戸惑わせた。