下町風情溢れる商店街の一角にある喫茶店で、莉央はミルクティーから立ち上る湯気を見つめていた。


「どういうことなの……?」
「ああいうのは【おとり物件】と言って、広告なんだ」
「広告……?」
「インターネットに良さそうな物件情報を載せて、客を呼ぶ。当然物件はないが、代わりにこんな物件がありますよと、違うものを紹介する」
「え……」
「インターネットで手軽に調べられるようになってから、おとり物件問題はしょっちゅう業界の問題になってる。もちろん真面目にやってるところだってたくさんあるんだがな……まぁとにかく、故郷を離れて全く知らない土地で住む場所を探すなら、簡単に見つかると思わないほうがいい」


 高嶺は熱いブレンドコーヒーを口元に運びながら、莉央に説明する。


「……っ……」


 息を詰めるような音が聞こえる。