クローゼットルームから出てきた高嶺は、ネイビーカラーの細身のダウンジャケットにオフホワイトのタートルネック、カーキ色のパンツ姿だった。
かなり見栄えのする男ではあるのだが、どこからどう見てもあのタカミネコミュニケーションズのCEOには見えない。
「そういえばあなたってスーツ着ないのね」
「正智」
「は?」
「あなたじゃなくて、正智」
どうやら名前で呼べと言いたいらしい。
「やめてよ、せめて呼ぶなら高嶺さんでしょう」
「莉央だって一応は高嶺だ。まぁ、旧姓を通してるみたいだがな」
「好きにしていいと聞いていたわ」
「まぁな」
高嶺はくすりと笑い、
「で、正智って呼べよ」
と、腕時計をはめながらスタスタと玄関へと歩いていく。
「待ってよ!」
どうしてこの男はいつも勝手に歩き始めて人を待たないのだろう?
莉央は慌ててバッグをつかみ彼の背中を追いかける。