「はぁ……なんなのよ、あの人……」


 何一つ自分の思い通りにならなかった莉央は、ため息をつきながら膝を引き寄せ、両腕で抱え込む。


(あの人はこんなすごいマンションに住んで、あんな立派な会社を持っている。だから離婚なんてすぐ成立すると思ってた……。)

 正直言って、かつての名門だった結城家はもう見る影もない。
 高嶺が結城の名をどう使いこなしたのかなど、莉央には考えもつかないが、今でも執着するような価値はないはずだ。


「早く別れて……早く自由にして……」


(ここは私の居場所じゃない。早く一人にして。私に画を描かせてよ……!)

 その思いだけが今の莉央を支える力だが、この体ではどうしようもできないのも事実。

 今は一刻も早く元気になるしかない。
 そう自分に言い聞かせた。