(泣いた分飲めって……勘違いもあるけど、泣いたのはこの人のせいなのに……。)
けれど心身ともに疲れきった莉央は反論する気にもなれなかった。
言われた通り水を少し飲んで、ぼうっと高嶺を見上げた。
(それでもやっぱり……この場合私が悪い。)
なんとか声を振り絞る。
「からかったなんて酷いけど……私も悪かったから……」
「ふん……じゃあお互い様か?」
なぜだろう。
皮肉っぽい口調であるけれど、自分を見つめる高嶺の目は少し優しい気がした。
(どうしてそんな目をするの……。)
莉央は思わず、高嶺をじっと見つめていた。
いつもの写生をするときと同じ目で、よく見て、その目で感覚で、心で、高嶺に触れた。
背が高く、体つきも立派だから圧倒されてしまうのだが、よくよく見れば、彼の黒い瞳はまるで日本画で莉央がよく使う黒、青墨(せいぼく)のようなのだ。