「わびの気持ちがあるなら、キスしろよ」
「……は?」
「キス。そのくらいのご褒美くれたっていいだろ?」


 そして高嶺は実に魅力的な、悪魔的な微笑みを浮かべて切れ長の目を細める。
 まるで莉央への最高の仕返しを思いついたと言わんばかりだ。

 だが莉央は彼の意図が全くわからない。


「い、いやよ!」
「お前に拒否権はない」
「あるわよ、そりゃ私が悪かったけど、そんな、キスとか、違うでしょ!」


 キスなんか、生まれて一度もしたことがない。
 おそらくこれからもする予定はないが、何が悲しくてこの世で一番したくない相手である夫とキスをしなくてはいけないのか。

 真っ赤になったり、真っ青になったり、また、莉央の頭がクラクラし始める。


「ってお前、また……」


 慌てるように高嶺が手を伸ばしてくるのが見えたが、莉央の意識がまたゆっくり遠くなる。