あれから、とりあえず仕事が終わるまではここにいろと言われ、仕方なく社長室で時間をつぶした。

 正直、高嶺正智の顔など一分一秒でも見ていたくない莉央である。写生でもしたかったのだが、この男の前で何かを描く気になれなかった。

 写生は観察することだが、同時に自分をさらけ出す行為でもある。

 傲慢でいけ好かない男だが、タカミネコミュニケーションズの繁栄ぶりを見れば、この男が優秀なのは間違いないだろう。

 そんな男に自分の心のひとかけらでも晒したくない。



 タクシーに乗り込み、シートに座るとくらりとめまいがする。

 昨日から体調が回復しない。
 元々血圧が低いのと貧血気味なので、一度低調になるとなかなか回復しないのだ。

(早く横になりたい……。)

 けれど高嶺の前では少しも弱ったところを見せたくない莉央は、ぴんと背中を伸ばして前をまっすぐに見つめた。