信じられないと言わんばかりに眉をひそめる莉央。だが高嶺は畳み掛けるように言葉を続けた。


「少しでも節約したほうがいいんじゃないのか」
「それは、そうだけど……」
「その間俺はここに泊まる」
「ここに?」


 莉央はキョロキョロと周囲を見回す。


「ここには仮眠室やミニキッチンがある。仕事が立て込んでいるときは泊まり込むからな」
「でも……」


 高嶺には莉央が必死に考えているのが手に取るようにわかる。

(俺の世話にはなりたくないが、贅沢するのは気がひけるといったところだろうな。)


「離婚するまでの辛抱だろ。大したことじゃない。俺を利用するだけのことだ」


(利用と言って、罪悪感を減らす。むしろ俺に負担をかけるのだと肯定させる。)

 我ながらちょっと天宮に似てきたなと、内心苦笑しながら、高嶺は妻を見下ろす。

 莉央はかなり不本意そうだったが、背に腹はかえられぬと思ったのだろう。

 しばらくして、意を決したように
「……ではお世話になります」
と頭を下げた。