(着物姿が異常に迫力があったんだな。ああやってみれば、うちの社員とそう変わらん。)
「莉央」
声をかけた瞬間、彼女はハッとしたように振り返り、眉根を寄せにらみつける。
「気安く呼ばないでください」
「だったらなんて呼んだらいいんだ。一応、俺の妻だろ」
「もうすぐ他人に戻るのに?」
その表情からしてどうも離婚する気はまだあるようだ。
莉央は背中にまで届く黒髪を手の甲で払い、それからその手を高嶺に差し出した。
「離婚届、もらいにきました」
「ああ、あれな。副社長に預けてる」
「は?」
「事務的な処理は全部あいつの担当なんだ」
高嶺の言葉に手を伸ばしたまま絶句する莉央。
「そんなことも自分でできないの?」
「……簡単なことじゃなくてね」