ギャラリストというのは、自前の店を持ち、美術家をプロモートし育てる存在である。
 設楽は莉央に自分の絵を売って生活しろと言いたいのだ。


「すぐに実家に連絡をして今まで書いたものをここに送ってください。私が厳選して、ギャラリストに見せますから」
「ちょっと待ってください、先生。私はそんな……」


 絵を描くことが好きで、一生描き続けたいと思っているのは事実。けれど日本画家として生きていくという選択肢を考えたことすらなかった。


「先生。私、学歴もキャリアもありません……先生にご迷惑がかかります!」


 美術界という場所が、明治の頃から派閥と画壇の階級制度に縛られたピラミッドだということは世間知らずの莉央でも知っている。

 そして設楽がその若さにおいてほぼピラミッドの頂点にいることも。

 公募にすら一度も出したことがない莉央が、そこを一足飛びにかけ上がれば、その手助けをした設楽が標的に上がる。


「莉央」