「はー……緊張する。はぁ……」


 ここにきて、何度目かの深呼吸である。

 長い髪を頭の上でお団子にし、体にきつくバスタオルを巻いて、莉央は脱衣所の鏡をじっと睨みつけていた。


 畳の上で押し倒された時、このまま抱かれるのかと思った。
 けれど恥ずかしくて、ついお風呂のことを口にして逃げてしまった。

 だが考えてみれば、お風呂もかなり恥ずかしいことに変わらない。


(なんだか私の顔、私じゃないみたい。)


 うまく説明できないのだが、鏡の中の自分は、自分ですら見たことのないような顔をしていた。

(人は恋をすると顔まで変わるの?)

 両手でパチパチと頬を叩く。

 だがいつまでも高嶺を待たせるわけにはいかない。

 勇気を振り絞り、からりと脱衣所のドアを開けると、湯けむりの向こうに人影が見えた。

 変に考えるとまた足が止まりそうで、思い切って彼の元へと歩いていく。

 岩風呂に高嶺が腰まで浸かっている。
 当然だが裸だ。(腰にはタオルを巻いてはいるが)

(どこに入ろう。向かい合って、それとも隣?)