「先生……?」
「いや、女性に不躾な態度をとってすみません。でもなんだか信じられなくて……莉央がここにいるなんて……」


 設楽は困ったように笑い、中指でかけていた眼鏡を押し上げた。


「何があったのか、話してもらえますね?」


 莉央は昨日東京に来た理由を説明した。


「そうですか……離婚届を」
「はい。夫のところに今日の午後にでも取りに行くつもりです」
「その後は?」
「住むところを探します。大体の目星はつけてきたので大丈夫です」
「そのお金はどこから?」
「母から借りました。働きながら返すつもりです」


 莉央が微笑むのを見て、設楽は端正な顔をかすかに歪ませた。