水森の指摘に顔が赤くなる。
水森はまだここにいるというので、一人で二階に上がる。
「正智さん」
閉場三十分前にかろうじて滑り込んできたのは、スーツ姿でバッチリと決めた高嶺だった。
二階の一番いい場所に、線のように細い額に収められた画があった。
高嶺はずっとその前に立っていたようだ。
あの熱烈な空港での別れから三週間である。
彼が銀嶺堂に姿を現したときは、飛びつきたいくらい胸がドキドキしたが、視線で彼の姿を追うことしかできなかった。
「これなんだな。莉央がずっと描きたかったものって」
莉央が今回の目玉にした画は、手前に太陽が沈み、奥に月が昇る、非常に美しい画だった。
金箔を貼った空と、水墨色の月。
赤い太陽。
ダイナミックな配置と色使いと構図に、設楽絡みで辛口批評をしてやろうとやってきた口うるさい批評家たちも、言葉を失った。