「ごめんなさい、先生。いきなり来てしまって。お電話は先週から何度かしたのですけど」
「ああ、先週はパリにいたんですよ。誰にも告げずに出かけたから、留守番電話もパンパンで……だから莉央は悪くない」


 煎茶を手際よく淹れ、さらに莉央の手土産の生菓子をテーブルの上に置く。

 そこで座るのかと思ったのだが、設楽は身をかがめて、莉央に顔を近づけた。


「……もっと近くで、見たいんです。立って」
「はい」


 立ち上がると同時に、顔がふわっと設楽の両手のひらに包まれる。

 百八十近い長身のためか、莉央との二十センチの差を埋めるためにかなり顔が近づいてくる。

 月の光のような美貌にあてられて、莉央の頰が自然と赤く染まる。

(十代の頃からお世話になってるのに、先生の顔を見るとやっぱり緊張してしまう……。)