「駄目だ、莉央……」
「だ、駄目って?」


 おそるおそる彼の背中に腕を回す。
 会えた喜びに、空まで飛んでいけそうな気分になる。

 彼もまた全力疾走してきたのだろう。ジャケットの下はTシャツだったが、一枚の布ごしの高嶺の体はそれ自体がエネルギーを発しているかのように熱く燃えていた。


「上手に恋なんてしなくていい。そうやって、一生俺を振り回してくれていい。莉央は莉央らしく、俺を思ってくれたらいい……」
「一生って……」


 夫が付き合いの接待に行ったくらいで激しく嫉妬して拗ねるような妻に、一生付き合うなど言っていいのだろうか。


「そんなこと言って大丈夫なの?」


 顔を上げ、それでもふふっと笑う莉央を見て、高嶺はまぶしそうに目を細め、
「本望だが?」
と笑い、それからまた強く抱きしめる。