高嶺は、莉央が己の感情に振り回されて苦しむのを、自分のせいだと思ったらしい。
自分が身を引いて莉央が楽になれるのならそうしようと提案しているのである。
それは莉央の望みを叶えることにはならないのに。
純粋な思いは、優しさは、他人から見ればどこか滑稽なものなのかもしれない。
けれどその子供のようなまっすぐな優しさが、莉央の目を覚まさせた。
「莉央、第一ターミナルの南ウィングに着きますよ。向かいながら彼の携帯に電話しなさい」
「はいっ……」
涙を拭いて、タクシーから降りる。振り返ると「早く行きなさい」と手を振られた。
「すみません、先生、私……!」
「もう十分わかりましたよ」
後部座席に乗ったままの設楽は、苦笑しながら早く行きなさいと微笑んだ。
その微笑みに莉央は胸がいっぱいになりながら、
「ありがとうございます!」
莉央は体を折るようにして頭を下げ、それから走り出した。