莉央の横でエレベーターの五階のボタンを押す、師匠の顔を見上げる。

 設楽桐史朗(したらとうしろう)。四十二歳。
 額にかかる波打つ髪はシルバーグレー、全体的にすっきりとした顔立ちの、生まれながらの美形。
 壮年の男の魅力が極まれば、きっとこうなるのだろうというような人物である。

(先生、お変わりないみたい。相変わらずなよ竹のように清楚で、でもどこか色気があって、先生の描く絵にそっくり。)




「お茶を淹れますから、そこのリビングのソファーで待っていなさい」
「先生、お茶なら私が……」
「いいから座って。私もなにかこう手作業をして、落ち着きたいので」


 苦笑しながらキッチンへと向かう設楽の様子を見る限り、自分の訪問は師をかなり驚かせてしまったようだ。

 広いリビングにはテレビもない。おそらく来客のためのソファがあるだけである。ここは純粋なアトリエで、おそらく眠る場所は他にあるのだろう。

 莉央はソファの端に座り、改めて頭を下げた。