莉央は生まれたてのひな鳥で、おそらく高嶺から注がれる愛情をそのまま素直に返しているだけなのだ。
人生は長い。自分にチャンスがないとどうして言えるだろう。
(画のことをもちだせば断れない莉央につけいるような真似をして、私も悪い大人ですが……。)
それから間もなくして、莉央が設楽のアトリエにやってきた。
「いらっしゃい、莉……莉央?」
ドアを開けた設楽は絶句した。
目の前に立つ莉央が目を真っ赤にして泣いているからだ。
「莉央、どうしたんです」
慌てて腕をつかみ玄関の中に招き入れると、莉央はよろよろしながら、また涙をこぼす。
「うっ、うっ……ひっくっ……」
「泣いていてはわかりませんよ。どうしたんです」
できるだけ優しく設楽は問い詰める。
すると莉央は、子供のように手の甲で涙をぬぐうと、身を引き絞るようにして叫んだのだ。
「私、あの人の前だといい子になれないんですっ!」