(それに……私たち結局そういうこと、してないし……。)
京都の部屋で過ごしたあの一時は、莉央の胸に強く甘い痛みを残した。
その後そういうことになるのだろうと、莉央なりになんとなくドキドキしていたのだ。
だが高嶺が自分を求めてくる様子は全くなく、気がつけば個展まであと三週間である。
(私が子どもっぽいから? 年齢だけは大人だけど、物は知らないし、常識はないし……だからそんな気にならなくなったとか?)
すべての元凶である、画に行き詰まっていることが、莉央のネガティヴに拍車をかける。
「……莉央?」
そんな莉央の葛藤も、高嶺には想像すらつかない。
うつむいて体をこわばらせる莉央の顔を、おそるおそる覗き込もうとするが、
「ごはん、用意してるので食べてください」
莉央はそれだけ言って、さっと身をひるがえし部屋に戻って行ってしまった。