水森はタバコに火をつけながら猫のように眼を細める。


「でも、設楽先生は、誰が見ても自分の初恋の女に見える、そんな画を描くわよ」
「はい。私はまだその域にない。そういうことなんだと思います……でも諦めきれなくて、悔しいっていいますか」


 うつむく莉央の顔は、水森には恋に悩む少女のように見えた。


「莉央さん、完全に行き詰まってしまってるわねぇ」
「そうなんです……」


 莉央はこっくりとうなずきながらミルクティーを口に運ぶ。


「設楽先生から少しだけ聞いたんだけど、今は長い間離れていたご主人と暮らしてるんだっけ?」
「えっ、あ、はいそうです」
「たまにはデートでもしてゆっくり過ごしたら? 気分転換が必要だと思うわよ」


(デッ、デート!?)


 眼を丸くする莉央だが、とりあえず水森との他愛ない会話でだいぶ気分がリフレッシュされたようだ。

 お礼を言ってcaféをあとにした。