「まぁ、それでも朝、寝る前に俺の朝食と弁当を作ってくれるし、行ってきますのキスもしてくれる。で、深夜、俺が帰る頃に起きてきて、夕食も用意してくれる。話が全くできないわけじゃない」
「ふむ……」


 高嶺の話を聞き、天宮は顎の辺りを撫でながら神妙な表情を作る。


「でもさぁ、一応愛し合ってる男女なわけじゃん。高嶺の方から、なんとなーくベッドに誘えないの?」


 高嶺は自分から女性に対して積極的になるタイプではないのだが、こうだと決めたらどんなことでもやり遂げる男である。

 愛する奥方様を抱きたければ、それこそ口八丁手八丁で、口説き落とせるに違いないのだ。


「そりゃ何度も考えた。でも莉央のあんな様子を見たら、言えなくなる」
「あんな様子ってどんな様子なんだよ」


 高嶺のまぶたの裏には、その状況がまじまじと浮かぶらしい。
 途端に毒でも飲まされたような表情になった。