(お嬢様はお嬢様と羽澄は言ってくれるけど、離婚が成立したら羽澄との関係もきっと変わる。早く一人前にならなくちゃいけない。)

 莉央は斜めがけの小さなバッグから手帳を取り出した。
 東京に来る前にきちんとやることリストを作ってきたのだ。

 リストにはずらりと莉央がやるべきことが書き連ねている。

 一番は【離婚届を渡す。】
 【住む場所を探す。】【仕事を探す。】
 そして【設楽先生にご挨拶。】であった。


 設楽桐史朗(したらとうしろう)は高名な日本画家で、莉央の師匠でもある。

 ほんの数年前までは京都にいたのだが、あまりにも絵が売れ、自宅兼アトリエにひっきりなしに客が訪れるのをいやがり、公私を分け、活動の場を京都から東京に移したのだ。

(設楽先生、何度かアトリエにお電話したけど留守番電話にすらならなかった。もしかしたら日本にいないのかもしれないけどとりあえず行ってみよう。)

 開店したばかりの百貨店へ行き、設楽が贔屓にしていた和菓子屋の生菓子をいくつか購入する。