けれどこの胸にこみ上げてくる何かを、莉央は筆で残したい、残すのが使命なのだと思う。
「正智さん、三ヶ月後の個展まで私がんばるから」
「ああ」
そして高嶺はじっと夕日を見据える莉央の横顔を見下ろす。
高嶺にとって、夕日はただの夕日でしかない。けれど彼女の目にはいったいどんな風に写っているのだろう。
その目に魅入られてからずっと、高嶺は莉央から目がそらせなくなった。
きっとこれから先もそうだ。
(俺は莉央に恋い焦がれて、死ぬまで追いかけ続けるんだろう。)
だが今はそれが幸せだと思える。
今日、なんて事のない夕日が、初めて高嶺の特別になった。