東京の高嶺のマンションに戻ってきて、まず莉央の目を奪ったのは、二面の窓から夕日が落ちる場面だった。

 橙色の大きな夕日が東京の街の中に沈んでいく。


「今日は空気が澄んでるみたいだな」
「うん……」


 高嶺にもたれて、ソファーからぼうっと太陽が沈んでいくのを眺める。


 前の晩、自分の部屋から月を見た。
 圧倒的な自然の美の前では、人は言葉を失うしかない。いや、なんの言葉がいるだろう。

 唐突に押し寄せてきた何かに、莉央は震えた。

 長い間、自分には何もないと思っていた。そして今でも自分にはこれができると胸を張って言えるわけでもない。