とても幸せとは言えなかった莉央の少女時代を知っていた者は、心から笑う莉央を見たら、それを受け入れるしかない。
「どんまい、羽澄ちゃん」
改札で、無言で二人の背中を見送る羽澄の背中を、加寿美が叩く。
莉央が物心ついたときから側にいたのだ。
兄も姉も、羽澄の思いは知っていた。
「莉央が幸せならそれでいいんだ」
負け惜しみでもなんでもなく、羽澄はそうつぶやく。
「聞いたかい、玲ちゃん。我らが弟はいじらしすぎる……。全米が泣いた」
「日本よ、これが忠義だ……」
玲子と加寿美は映画の煽り文風に羽澄を励ましながら、それでも弟の言う通り、莉央の幸せを願わずにはいられなかった。
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