「莉央、ちょっと後ろ向いててくれ」
「どうして?」
「……どうしても」


 そういう高嶺はまるでKO負けしたボクサーのようにうなだれている。
 いつも莉央をからかいまくる高嶺にしては珍しくダウナーだ。

(変なの……。)

 そう思いながらベッドから体を起こし、背中を向けると衣ずれの音がした。どうやら高嶺が身支度を整えているようだ。


「正智さん、着付けてあげようか?」
「いや、駄目だ」


 駄目と断られる意味がわからないが、高嶺曰く、
「俺は今ケダモノだから」
の、一点張りで振り向くことすら許されなかった。


 そうやってしばらく険しい表情でうなだれていたかと思ったら、ゆっくりとベッドから立ち上がると、莉央のおでこにキスをする。


「おやすみ、莉央。愛してるよ」
「私も」


 莉央は嬉しそうに立ち上がり、そのままぎゅっと高嶺に抱きついた。


「おやすみなさい」


(ああ、理性が擦り切れる……。)


 ここが莉央の実家でなければと、心底思う高嶺であった。