「たとえ持ち主が変わっても、私はこの景色を一生覚えてる。だから大丈夫」


 この家を出て行くまでの二十六年間。泣いたり笑ったり、そして何てことのない日々も、莉央は毎晩この部屋で眠ったのだ。その思い出は強く、莉央を形作る記憶として残っている。


「そっか……もしかしたら今日が最後の夜かもしれないのね……。勢いで戻ってきちゃったけど、よかった……」
「俺も、莉央の生まれ育った場所を見られてよかった」


 そんな高嶺の言葉に、ハッとした莉央は振り返った。


「私もいつか、正智さんの実家に行ってみたい。そういえばお母様はどうなさってるの?」


 高嶺の父との確執については今日聞いたばかりだが、母の話は聞いていなかった。