「十年前、主人に莉央を見知らぬ男と結婚させると聞いた時、止められなかった。鎌倉時代から続く結城家を終わらせる気かと言われて、反論できなかった。けれど娘を犠牲にしてここに住み続けることに、なんの意味があったのでしょう。夫が死に、姑がある死に、莉央と二人きりになって初めて、私は母親失格だったと気付いたのです」
「お母さん、母親失格だったなんて、そんなこといわないで!」


 莉央の大きな目に涙が浮かぶ。


「商家からお嫁さんに来て、娘一人しか産めなかったって、ずっとおばあちゃんにつらく当たられてきたじゃない。お父さんが外で遊び呆けてたからなのに、我慢してたじゃない!」
「莉央……」
「十年経って、好きに生きなさいっていってくれたお母さんはすごく勇気がある! 私の背中を一番に押してくれたのは、お母さん。私にとってお母さんは最高のお母さんよ!」


 ぽろぽろと零れ落ちる涙を、莉央は子供のように手の甲でぬぐった。そしていつまでも頭を下げている高嶺の上半身を起こす。