「高嶺さん。それでお話ということだけど……」
「はい。今更ではありますが、お二人に俺の昔話を聞いてもらいたいと思います」
「昔話?」


 隣の莉央の問いに、彼はしっかりとうなずいた。


「本来なら、十年前の元凶である俺の父もここにいるべきだと思います。ですが父はすでに故人です。実家ももうありません。父が死んだ後、俺が更地にしてしまいましたから」


 その瞬間、高嶺の端正な横顔に、さっと影のようなものが落ちた。


(実家を更地にした?)

 あまりにも強烈な告白に、莉央は言葉を失った。


「……俺の父は、昭和最後の不動産王として名を馳せた男でした。東北の貧しい出自から身一つで財をなし、のちに政治家として大臣にまで上り詰めました。そして俺の母は、父の数多くいる愛人の一人で、俺は婚外子として生まれました。ただ甲斐性だけはある父でしたので、母もそれほど苦労せず俺を一人で育ててくれたし、大学まで入れてくれた。人並みの生活は送れたように思えます」