「お母さん、申し訳ありません。つい」


 なにがついなのかなじりたくなった莉央だが、もうこのことには一切触れたくない。


「おっ、お母さん、座ってください!」


 しどろもどろになりながら、莉央は彩子を上座に座らせ、こほんこほんと咳払いをした。


「えっとね、お母さん、実は私、昨日は羽澄の家に泊まらせてもらったの。京都に帰ってきたのが遅かったから……ごめんなさい」
「ええ、高嶺さんから話は聞きました。だから羽澄君の家にいると思ったのよ」
「お母さんが教えたんだってね」
「迷ったけど高嶺さんが嘘を言っているようには思えなかった。ただ、高嶺さんがここを出た後に、羽澄君に連絡したら『急いでお嬢様を移動させます』って言っていたけど……会えてよかったわ」


 どうやら羽澄は高嶺が京都に来たことを聞いていたらしい。

(携帯を持っているか気にしてたのも、早めのランチに誘われたのも、そのせいだったんだ……。)


 もちろん莉央に羽澄を責めるつもりはない。彼は彼なりに、莉央を守ろうとしてくれたのだから。

 そして彩子は、改めて高嶺を正面から見つめる。