顔を出したのは、着物姿で、手には花ばさみを持っている莉央の母、結城彩子(あやこ)である。

 通いのお手伝いさんにも暇を出し、今は広大な屋敷に一人で住んでいる彩子の生活圏は、主にこの玄関そばの六畳間になっているようだ。

 ちょうど花を活けていたようで、畳の上にはマーガレットとチューリップが何本か並べられていた。


「高嶺さんも一緒なのね」


 彩子の目が莉央と高嶺を交互に行き来する。


「奥座敷にお茶を用意してちょうだい。ここを片付けて私もすぐに行くから」
「うん」


 莉央は高嶺を奥座敷へと連れて行き座らせると、今度は台所へ向かって煎茶の用意をし、また奥座敷に戻る。

 高嶺はきちんと正座をし、奥座敷から見える結城家の見事な庭園を眺めていた。