「俺が十年前、ここに来た時、話したのは当主ただ一人だ」
「……」


 わかっているけれどどうしても歯切れが悪くなる。苦しくて泣きたくなる。
 十年前、いきなり結婚が決まったと父に言われたあの日のことが、昨日のことのように蘇るのだ。

 黙り込んだ莉央を見て、高嶺は胸に痛みを覚えるが、それでも自分は莉央のそばにいたいと思う。


「莉央、思うことがあったらなんでも吐き出してくれ。我慢される方が辛い」
「うん……」


 あの日のことは、自分も受け入れないわけにはいかないのだ。どれだけ辛くても、悲しくても。





「ただいま戻りました」


 玄関で声をかけると、左右に伸びる廊下を挟んだ向こうにある、座敷の引き戸ががらりと開いた。


「はぁい……あら、莉央じゃない」