母を落ち着かせるために言った「なんとかなるわ」だが、口に出すと自分でもなんとかなるような気がしてくるから不思議である。


『そんなこと言って……あなたって、普段は我慢強くて慎重なのに、いざというとき楽観的になるのよね」
「私が楽観的なのはお母さんに似たせいよ。それよりお母さんは大丈夫なの?」
『お母さんこそ大丈夫よ。荷物を少しずつ整理して、郊外に小さな家を借りるつもり。 お花とお茶、それと書なんか教えられるから、それで生活していけそう』
「うん」
『屋敷もね、いずれ然るべき機関に保存してもらうつもりだから。莉央の生まれた場所がなくなるわけじゃないのですからね』


 だから気にするなと母は言いたいのだろう。

 電話の向こうの母は、娘の幸せを誰よりも願っている一人である。
 母が背中を押してくれなければ、莉央は離婚に踏み切ることなどできなかった。


 莉央は何度も「ありがとう」と言い、通話を終えた。