「まぁ、そうだな……。でも驚かせるつもりはなかった。悪い」
「悪いで済まないわよっ、バカ!」


 その瞬間、莉央は生まれて初めて、人に手を上げようとした。
 だがその振り上げられた手は、そのまま拳のかたちに握り締められ、高嶺の頭上に振り下ろされる。

「いてぇっ!!!」

 ごつんと激しい音が辺りに響き、高嶺が悲鳴をあげた。


「痛いじゃないわよ、落ちたら死んでたかもしれないのよ!」
「落ちないつもりだったぞ。本当に落ちたら莉央を未亡人にしてしまうしな」


 真顔で言われて、一気に力が抜けそうになる。

 この後に及んでなにを言うのか……。
 唖然とする莉央だが、怒りは収まらない。