そのままほんの少し風に煽られたら、彼はそのまま落ちてしまうだろう。


「危ないわ、やめてっ!」


 びゅうびゅうと強い風が吹く。

 たった数メートル先にいる彼の、初めて見る正装が、まるで死装束のように見えた。


「莉央。お前は俺を見なくてもいい。振り返らなくてもいい。俺がお前を見つめている。そしてお前が見ている先を見る。お前は誰のものでもない。モノじゃないんだ。自由だ」


 強風が吹く。
 莉央の髪がたなびいて、一瞬視界から高嶺が消えた。


「正智っ!!」

 
 気がついたら莉央は走っていた。無我夢中で高嶺に手を伸ばし、つかみ、コンクリートの上にもつれるように転がっていた。