私はあなたが好き。好きよ。
 好きじゃなければこんなに傷つかない。

 だけど私は、自分の足で立ちたい。

 画の中の女はもういない。
 もうお人形には戻れない。


「莉央」


 どれくらい時間が経ったのか……。

 莉央と視線が絡み合ったままの高嶺は、怒るでも悲しむでもなく、その切れ長の瞳を輝かせて、艶やかに微笑む。


「捕まえて抱きしめてもすり抜ける。それでも逃げるお前を、俺は追わずにはいられない……なんて女なんだ、お前は」


 そして立ち上がると、力強い足取りで、何もない屋上の端へと向かって歩いていく。

 なにしろ年季の入ったビルだ。金網がない。そのまま直進すれば、風に煽られて落ちてしまうかもしれない。


 けれど高嶺は、眼下を見下ろすようにビルの端に立った。

 着ていたスーツの上着が、風に煽られてハタハタとたなびく。