今更気づいたが高嶺はスーツを着ていた。

 濃いグレーの仕立ての良い揃いのスーツだ。普段彼はあんな格好はしない。

 もしかして京都で撮影でもあったのだろうか。自分に会いに来たわけではなく、ついでに来たのだろうか。


「服が汚れちゃう……」


 そんなことを考えていたせいか、莉央は的外れな言葉しか口に出せなかった。

 その瞬間、ひざまずいたままの高嶺はひどく傷ついた顔をした。


「莉央……俺はもう信じられないか」
「……だって」


 喉の奥がぎゅうっと締め付けられる。

 このまま口を開けば、自分を支えていた価値観が崩れ去る予感がした。