その瞬間、
「莉央っ!」
 よく通る男の声が、莉央を呼んだ。

「う、そ……」

 全身に電流が流れるような衝撃を受ける。

 声のした方向を振り返ると、入り口に、タクシーから飛び降りる高嶺がいた。

 ただそこに立っているだけで存在感がある、光を放つような男だ。見間違いのしようがない。

 さあっと全身から血の気が引く。

 とっさに莉央は立ち上がり、エレベーターの方へと駆け出していた。


 二機あるエレベーターの一つがタイミングよく無人で開く。

 何も考えず飛び乗って、最上階を押した。


「莉央っ!」


 追いかけてくる高嶺の伸ばした指は閉まるドアに届かない。ぴしゃりと閉じて、上昇を始める。