「あの、お嬢様。今、携帯はお持ちですか?」
「……あっ、ベッドボードの上に置きっぱなし。もしかしてかけてくれた?」


 長い間携帯を持ち歩く習慣がなかったので、つい忘れがちになってしまう。


「いえ、そういうわけでは……えっとお嬢様、少し早いのですがご一緒にランチでもいかがですか?」
「そうね……」


 時計を見ると十一時である。確かに少し早いが、せっかく羽澄が誘ってくれたのを断る理由もない。


「じゃあ行こうかな」
「よかった。美味しいパスタのお店があるんですよ」


 ホッとしたように羽澄が息を漏らす。