「ここが……?」


 莉央は呆然とビルを見上げる。七階建ての焦げ茶色のビルは古めかしく威厳があり、しかも自社ビルだった。

 主家であった結城家を凌駕する繁栄ぶりだ。
 莉央は今更ながら、結城家が本当に多くの人に支えられていたことを思い知った。


 受付の女性に声をかけると、すぐに羽澄が血相を変えて駆け下りてきた。エレベーターがあるのに階段でである。しかもあまり見慣れないスーツ姿だ。


「羽澄これ忘れ物」
「おっ、お嬢様、申し訳ございません!」


 封筒を差し出すと、羽澄はハハーッと両手でうやうやしく受け取る。

 どうやらいつもはクールな美青年を通しているらしい。受付の女の子が目を丸くして羽澄を凝視しているが、羽澄は全く気にしていないようだ。