翌朝、身支度を整えてから、莉央は一人で下のフロアの税所家に挨拶に行き、小松さん含め熱烈歓迎を受けた。

 離婚届を夫に渡したこと、設楽の後押しもあって日本画家として頑張ろうと思っていることも全て話した。


「いきなりは難しいかもしれませんが、お嬢様はもう自由なのですよ。ご自分の思うように、お嬢様らしい生き方を選んでください」


 いつもは無口で寡黙な羽澄の父は、それだけ言ってにっこりと笑ってくれた。


「ありがとうございます」


(私らしくかぁ……。私らしく……。)

 自分らしくとは一体どんなものなのだろう。

 今まで家のためだと生きてきた莉央である。自分のためと言われても、なかなかこれだ!と思い切ることは出来なかった。


 礼を言って上の階へと戻ると、玲子がバタバタとスーツに着替えているところに遭遇した。


「玲子ちゃん、どうしたの?」