「……っ」

 喉からひゅうっと息が鳴った。

 悲鳴が漏れそうになり、手のひらで口を押さえ背中を丸くする。
 ぎゅっと閉じた目の端から、丸い涙が溢れ、頬を伝った。


(十年前、学校から帰ると私の結婚が決まっていた。嫌だと泣いて叫んでも、家長である父の決定は絶対だった。)


 これがただの政略結婚なら、おそらく莉央は数年で環境に適応していただろう。
 結城の一人娘に生まれた以上、自由に結婚する権利などないということは、わかっていた。

 不満はあれど、それでも毎日顔を合わせ、言葉を交わしていれば、夫となる人との間に絆が生まれたはずだ。

 けれど莉央は違った。

 夫の顔も声も知らないまま十年。
 完全に無視をされた人生だった。

 こんな酷いことがあるだろうか。
 死んだほうがマシだと思うばかりの日々だった。