「ごめんね」
「いいんです。車で迎えに来ていますので、さ、行きましょう」
「うん……」

 莉央のトランクを引き歩き始める羽澄だが、ふと思い立ったように肩越しに振り返り、後ろをトボトボと歩く莉央に、もう一方の手を差し出す。


「はい、お嬢さま」
「うん?」
「人が多いですからね。手を繋ぎまししょう」


 そういえば幼い頃は、お屋敷に遊びに来ていた羽澄にべったりだった。どこに行くにも羽澄と手を繋いで、男の子の遊びに混じっていた。

 羽澄だって本当は、男の子同士で遊びたかったはずなのだが、莉央を邪険にすることは一度もなかった。

 この手を握ってさえいれば、安心できたのだ。

 少し恥ずかしかったけれど、今日だけは子供の頃のように甘えても許してもらえるかもしれない。


「ありがとう、羽澄」


 泣きそうになる声をなんとか振り絞って手をつなぐ。

 
「羽澄は何があっても、お嬢さまのお味方です」


 繋いだ手に、力がこもった。