自分を励ましながらなんとか立ち上がり、よろよろとフロアの真ん中にあるソファに移動した。

 今日、莉央たちが宿泊するのは都内の外資系ホテルである。
 昨晩京都の実家から送ったスーツケースが部屋の隅に運び込まれていた。

 莉央自身は普通のビジネスホテルだと思っていたので、ここにきて面食らってしまったが、あまりにも疲れすぎていて、羽澄に文句を言う気にもなれなかった。

 ふと、脳裏に獣のような男の姿が浮かび上がる。

 美しい男だった。誰も手懐けることは出来ない、野生の獣。

 高嶺正智……。

 十年前、紙切れ一枚で莉央の夫になった男。
 傲慢で……人を人とも思わない。
 莉央の人格全てを否定した男。
 あの男に十六歳の莉央の心は引き裂かれてしまった。