水森はそう言って、莉央をまっすぐに見つめ返す。


「どうして画の中から出てきたの?」


 憎しみをぶつけられたわけでもない。ただ本当に困ったことに直面して、どうして?と問われているような気がした。


「……それは」
「あなたは設楽先生の画の中だけに存在する、理想の女よ。現実の女からしたら、目障りで仕方ない」


 そして水森は、ポケットから薄いタバコケースを取り出して、中に入っている煙草を一本唇に挟む。


「意地悪ばかり言ってごめんなさいね。でも多分、あなたは日本画家として成功する。先生は私情だけで動いたりなさらないし……なにより断ってやる気満々だったのに、このポートフォリオを見たら、私だってやる気になったもの……」


 細くタバコの煙がたなびく。