パタンとファイルがテーブルに置かれる。
 その気配に少しばかり棘を感じて、莉央は顔を上げた。

 だが美しい銀嶺堂の女主人は特に敵意を向けるわけでもなく、運ばれてきたコーヒーカップに口元に運んでいる。


(勘違い……なのかな。私、ピリピリし過ぎているのかも。)


「はい。先生には何から何までお世話になっています」
「あなたはとても美しいわね」
「えっ?」

 唐突にぶつけられた言葉をどう受け止めていいかわからなかった。

「でもきれいな女ならごまんといる。設楽先生のように世界で認められるような芸術家の周りには、それこそ砂糖に群がる蟻のように、集まってくる」
「……水森さん」
「でもあなたは違う。どこか影があって、自己主張もせず、おとなしそうで、思わず手を差し伸べたくなるような、そういうか弱さと同時に、絶対に、死んでも譲らないような熱い何かがある。ロマンよね……。現実にはありえない、まさに理想の女だわ」