天宮は怒り心頭で高嶺を叱り飛ばすが、高嶺としては寝耳に水の出来事だった。
「いや待て。俺はこんな女知らないぞ」
「は?」
「女優だろ? いや、マジで知らない。今は莉央がいるし、その前は二週間くらい新規プロジェクト立ち上げで、一緒に徹夜で会社泊まり込んでただろ。通いつめられても俺はマンションにいない」
「……確かに」
「つか、このマンション見ろよ。生垣のへん、違うだろ。俺が去年住んでたところだ」
「ん?」
高嶺に理路整然と説明されて、珍しく頭に血が上っていた天宮は落ち着きを取り戻す。
印刷物をじっと見つめて、「あーほんとだ」とうなずいた。
「てかさ、この相手の男、チェリブロの社長じやない?」
チェリブロというのは同業他社の最大手、いわゆるライバル会社である。
社長も高嶺より三つ四つ年上で、顔を何度も合わせたことがある。
「あ、似てるな」
「あっちもデカイし、背格好似てるからな。間違われたかな……」